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不安と緊張 密室 PART1 [生活]

自分にとってある一件で、このうえない不安感と緊張感ある思いをしたことがあった。勿論それまでにも不安や困惑、挫折や絶望を感じる事態は多々あったことはいうまでもないのだが。それはそれは、なんとも恐ろしい出来事だったのだ。
その意気地ない思いをここに綴る。

密室

12月1日、とうとうその日はやってきた。この2、3日何かそわそわと唇が乾く日が続いていた。
「では、12月1日ということで…」とその日を決めたのは数日前のことだった。多分緊張のせいなのだろう、その日を迎える夜は変な夢のせいで三度も眼を覚してしまった。軽い朝食をすませ、約束の場所へと向かった。東横線の中目黒を降り、山手通りを五反田方向に約十分。左に折れて橋を渡るとその建物が勢いよく迫ってくる。門が近づくにつれ歩幅が小さくなり、速度も鈍る。時計に眼をやると約束の時間にはまだ少し早い。黄色くなった銀杏が何本か並ぶ川沿いの道を歩く。川の流れは悪く、水が濁っている。眼下の茶色い川面を眺めながら、門をくぐると起こりうるであろう光景を脳裏から消そうと懸命に頭をからにしてみる。やっとのことで度胸を決めてユーターンした。
大きな建物の中はやけにガラーンとしている。来たことを告げソファーに腰をおろす。
20分位待っただろうか。「こちらにどうぞ」若い女性の声。その女性に従い長い廊下を歩く。緊張が一段と高まる。エレベーターを降りると重そうな扉が眼に飛び込んできた。女性はいとも簡単にその扉を押し開け自分を招き入れる。部屋に入ると同時に待ち構えていたかのように初老にも見える女性が歩み寄る。「おねがいしまーす」若い女性の方はその言葉を言い残し私を広い密室に閉じ込めた。
「緊張してるようですね」初老の女性はやさしく私に微笑んだ。
「では、着ているものを全部脱いでください」私は与えられた着物一枚だけを着せられ、次には車椅子に乗せられた。目隠しされますか?と尋ねられ断ると、眼は瞑っていたほうがいいとおもいますよと促し車椅子をゆっくり押し始める。一直線の廊下の両側には冷たい金属質の部屋が十室位並びほとんどの部屋の扉は開け放たれていた。私の眼は脇見せず廊下の床面を一心に見つめていた。車椅子は左側の三つ目の小部屋へと入った。ライトブルーにまとめられたその部屋は予想通りのものだった。この時緊張度は最高潮に達していた。その女性は何の躊躇もなく私を車椅子から立たせると、やや高めの幅の細いベッドにやさしく寝かせてくれた。その冷たく硬いベッドこそ自分が初めて体験する手術台というものだった。
【続く】


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