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不安と緊張 密室 PART2 [生活]


なーんて、実は手術というには取るに足らないような手術なのだ、これが。
二年前より左手の親指の動きが鈍くなり第一関節が半分動かなくなったことに加えて、一年前より中指もこれに類似してバネ指になってしまい、近頃では親指の付け根にガングリオンというしこりが出来てしまったのが運の付き。動きが悪い原因は炎症をおこした腱の鞘というものが指の筋を圧迫しているためだという。これらを全て治すためには、二本の指の付け根を切開して悪い所を取ってしまえばそんなものはすぐに治っちまうと、手の専門だから安心していいと別の医者から紹介されたその整形外科医は人ごとだと思っていとも簡単に言ってのけた。
十字型にセッティングされた手術台に仰向けになった途端、例のライトが威圧してくる。初老の看護婦は仰向けの姿勢が苦しくないかを親切に尋ね我が侭を言う自分に台と背の間に布を押し込み適切な環境をせっせっと作ってくれる。手術する手を左の台に投げ出し、右手もまた点滴のために右の台に投げ出すという磔(はりつけ)の格好さながらになっていた。そうこうしていると、もう一人三十歳位の看護婦が入ってきて挨拶を交わす。二人はてきぱきと手術の準備にとりかかっている。しばらくすると、足元の開け放たれた入口より全身ライトブルーに被われた執刀する主治医と他に二人の若い男性医師が入ってくる。「いたくないようによろしく」と一言。若い医師がこれから手術する左手のガングリオンをさわり、わっ、こりゃ大きいやと品評の一言。
手術室の戸が静かに閉じられた。「では、始めます」手術の様子は見たくないと告げてあったので、左腕と顔とは布で完全に遮断された。布の向こうで手のひらから肘の方に至るまで入念に消毒を施している。「痛いことをする前には言いますから」と言い終わった途端、「麻酔の注射しますからちょっと痛いですよ」と同時にチクッー。ガマン、ガマンとこらえていると初老の看護婦が点滴している汗ばんだ右手にそっとガーゼの切れ端を握らせてくれた。左上腕部にはこれ以上無理という位に血の流れをとめるための紐が巻き付けられかなり痛みが走る。手のひらがジンジン痺れだしてきた。いつ切られるのだろうと思う間も無く電気メスは親指の付け根を裂いているようだった。皮をこじ開け引っ張ったり、肉をこじあけたりしている圧迫感だけが伝わってくる。脱脂綿で血を拭っているであろう感触も感じ取れる。「あーあ、白っぽいなあ」炎症をおこしている腱の鞘にいきついたらしい。はさみを使う音のあと、「もう少し下からがいいな」若い医師にやらせているのだろうか、ひそひそとマスク越しの会話が聞こえるがその言葉を拾わぬことにした。視界の拡がる右側では初老の看護婦が点滴のチェックやら十分毎位に血圧を計る。時折手術の進行具合を確かめるように左手の方に眼をやっている。目と目が合うと必ず言葉を交わしてくれる。
【続く】


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